多様な人が活躍できる組織マネジメント

昨日はこちらの特別講座に行ってきた@法政大学。

『成果を出し続ける経営マネジメント~行動分析学に基づいたアプローチ』

Continuous Learning Groupという会社のCo-founderであるJulie Smith博士のご講演。
講演後の質疑応答セッションにも行ってきた。素敵な機会に感謝。

以前、このブログで「インクルーシブ教育のための組織作り」について書いている通り、ここのところ「組織作り」や「マネジメント」に非常に興味がある。マイブーム。

理由
・そもそも働いている人が幸せに働けるような組織でないと、届けるサービスの質がいかに高くても意味がない。
・組織では確実に一人でできないことができるが、マネジメントがしっかりできていないと組織で動く意味がない。
・「学校」では、「特別支援教育」の浸透云々以前に、先生方が幸せに働ける組織作りが必要なのではないか。
・多様な子どものニーズに対応できるインクルーシブ教育システムを構築するためには、多様な人が幸せに働ける組織作りが欠かせない


自分が今いる「組織」に居ても同じことを思う。社員が幸せに働けていないと、どんなに質の高いサービスを作っても意味がない。どんなに研修を一生懸命したり、先生用の教科書を作ったり、プログラムを作っても、先生たちが幸せに働けていないと意味がない。困った時に相談できる環境がないと、意味がない。

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加えて、ここ1年程、いわゆる「行動分析家」と接する機会が非常に多い。
すっかり行動分析の用語も違和感なく使えるようになってしまった。
ちなみにあたしは2年前にPositive Behavior Support(PBS)に出会うまで、行動分析にはフィルターがかかった見方をしていた。せいぜい「問題行動を減らすためにご褒美とか罰とか使うんでしょ?」ぐらいしか思っていなかった。

が、PBSの考え方、その概念的枠組みと出会って、まったくその見かたが変わった。

インクルーシブ教育の研究をしている中で、制度や指導法・アプローチ方法も広く浅く勉強しているが、その中でもPBSの考え方はインクルーシブ教育に向かう現実的な方法の一つとして非常に合理的で分かりやすい。
(PBSについてはまた別途詳しく書きます。簡単に言うと、「問題行動を減らすことに焦点をあてるのではなく、行動のレパートリーを増やし問題行動をしなくても済むようにすることで、生活の質向上を目指す包括的な支援」
PBSの考え方をベースに、学校集団全体へアプローチするSchool-Wide PBS/ Positive Behavior Intervention & Support (PBIS)と呼ばれるアプローチは米国ではイジメ防止プログラムとして根拠を確立している。)

おっと、今日はPBSの話ではなく…。

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冒頭の通り、じゃあどのようにしたら組織の構成員が幸せに働けるような組織を作れるのかな?と日々考えているのだけれど、今回の講演会では大きなヒントをいただいた。

Smith博士が起業したCLGは行動分析をベースにして経営マネジメントをするコンサルティング会社。企業や行政機関から依頼を受け、経営戦略に合わせ、各社員がどのような「行動」をとったら良いかを明確にし、介入をしていく。

その手法として行動分析学を用いている。
ABC分析(行動の前に起こること、行動、行動の後に起こることの分析)を行い、経営戦略に合わせて獲得すべき行動(標的行動)は何か?を明確にし、そのために必要な条件(先行子操作)はなにか?そして、行動した結果をどのように変える必要があるか?をCLGが計画立てる。行動のデータをとり、データに基づいて次の意思決定を行う。

例えば、それまでは「年功序列」が浸透しており、「年齢が上の経営陣の言うこと=正解」だった組織から、データをもとに意思決定をする組織に変えていく。

CLGはたくさんのFortune 100の企業や行政機関に対してコンサルを行い、成功した実績がある。
例えばUPSやHEINZ、American Eagleなど

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興味深かったお話をいくつかご紹介。


・基本的な「事実」:「行動が変わらなければ、何も変わらない」
…その通り。「意識」「マインド」が変わったとしても、その後の行動が変わらなければ。
経営戦略を実行するためには、構成員一人ひとりの「行動」を変えて行く必要がある。

・4:1 Ratio
ポジティブな結果(褒め言葉など)が4、ネガティブな結果(叱責や修正)が1だと行動は持続可能になる。
…面白い!これはエビデンスに基づいた数値とのこと。これが2:1や3:1だと、退職する可能性が高くなるとのこと。あとこれは、夫婦でもそうなんだって!2:1や3:1だと離婚する確立が高くなるそうな。そして、逆に褒め言葉が多すぎて13:1以上になっちゃうとウソくさくなっちゃうとのこと。

ここで出ていた質問が、「日本だと褒められることが必ずしも『ポジティブ』ではないケースもあるのでは?」 お答えが、確かに文化によって褒め言葉ではなくて別のポジティブな結果が必要だけれど、基本的な4:1の数値は変わらないとのこと。

・経営戦略に基づく(標的)行動が構成員一人ひとりにどのようなメリットを及ぼすかを明確にする
…たしかに、一人ひとりが働いている理由、行動する理由って、「会社が成功するため」ではなくて、お給料のためかもしれないし、周りに評価されるためかもしれない。だから、標的行動をすることによって、一人ひとりにどんなメリットがあるか明確に示す必要がある。

・「やらなくちゃいけない」と一人ひとりが思っていることを、いかに「やりたい!」に変えて行くか。


・コンサル終了後に行動が持続されるために、コンサルタントがいなくても行動が強化されるシステムを作る。最後にランダムにサンプリングを行って、社員たちの行動のデータをとる。

・(あたしが質問したこと)「CLGがコンサルをすることにより、それまでの社風が大きく変わると思いますが、そのためには経営陣が100%コミットしないと無理だと思います。それは契約の時点でコミットしてもらうのですか?」
⇒もちろんイエス。経営陣が一人でもコミットできなかったら、難しい。
…ですよね…ここの部分が一番日本では厳しい気がする。

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例えば経営戦略に沿って会社の社員が行動できるような仕組みをつくったとしても、その行動を強化する仕組みがなければ意味がない。どんなに素敵なサービスを作っても、それを運用に持っていけなければ。
ああ、ちょっと耳がいたいなあ…

あたしはマネジメントについて勉強がしたことがない中、特別支援教育で得られたノウハウをなんとなく使いながら組織の中で動いていたけれど、これである程度根拠が得られた気がする。

非常に面白い。

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昨日の話は、いかにトップダウンでシステムを変えることにより組織マネジメントをするか、って視点の話しだったけれど、そのシステムの中でうまく(標的)行動が習得できて、維持される場合は良いけど、1000人も2000人も社員がいる場合、そのシステムの中だけでは行動の獲得や維持が難しいケースもあると思う。みんなが「強化」されてもその人は「強化」されないってケースが出てくるのでは。

その時にシステムに「乗らなかった人」を「切る」ような組織は嫌だなあ、と思う。
万人に「効く」強化子が「効かない」なんて多分その人はすごく変わった人だろう。
むしろそういう人がいた方が会社にとってはプラスになるんじゃない?

多様な人がいることを前提として、多様な人が活躍できるような組織が素敵。

そのためには、やっぱり一人ひとりが信頼関係が築けている組織である必要がある。
一人ひとりの得意・不得意を知っていて、言うならば一人ひとりの「支援計画」があるような組織。

今後はそんな組織の方が成功すると密かに思っている。

特別支援教育のことを知っている人はラッキーだね。そのノウハウが組織作りにそのまま使える。

今回はじめてマネジメントについて学んで、他にどんな手法があるのか気になってきちゃった。

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偉そうに言っておく。

いいかげん、パワーマネジメントはやめた方が良い。
賞賛より叱責の方が多いようでは、あるいは、賞賛も叱責もないようでは、幸せに働けない。

幸せに働けない社員が多ければ、その組織は必ず失敗する。





それは、どんな組織でもそう。
学校も。




追記:
CLGのことが書いてある本はこちら。







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